手技療法家のところへもさまざまな疾患をもった人が訪れる。昨年秋のフォーラムから帰った日の翌日、四十代の婦人Sさんが自身の相談にやってきた。昨年夏、お盆の頃に気づいたそうであるが、右乳房の脇寄りのしこりに触れたという。盆明けに早速、病院で診てもらうと、乳癌だと診断された。本人は摘出手術によって乳房を失いたくないとの思いから、免疫療法なるものにすがることを決心した。しかし、免疫療法を続けながらも、やはり心配なのだろう、再度、病院で受診したのであるが、さらに癌が大きくなって進行しているというのだ。それでも免疫療法を続けながら不安な日々を悶々と過ごしていたのである。

その不安というものは、当初はわずか1%の不安であっても、時の経過とともに不安が99%に逆転してしまうものである。そして手術を受けるべきか、このまま免疫療法を続けるべきか? と、悩むことになる。そのせいであろうか急に白髪が増えたと訴える。そういえば昔、マリー・アントワネット王妃は、ギロチン宣告の翌朝、一夜にして真っ白な髪になっていたというが、精神状態は、たちまち毛髪の色を変えてしまうのである。

そんなとき、Sさんの母親の友人が20年以上も前に私のところで乳癌を治してもらったという話を聞き込んで訪ねてきたものだ。そういえばそんな人がいたのを記憶している。特に私が治したというものではないが、本当は本人の努力の成果であり、確かに治っているのは事実である。そしてSさんの強い希望により私の指導を受けるということになった。本人自らの責任である旨、確認をとり、誓約書を受ける。このようなケースでは常識的に誓約書をもらっている。

さて、臨床に入ると、顔色が目につく、黒い顔をしているからだ。顔が黒いのは腎臓が悪い、腎不全や膀胱炎、それに婦人科疾患が特徴であり、悪化すると腫瘍や肉腫に進化して癌になる。一般的に言ってあらゆる疾患は体液が酸性化するのであるが、癌だけは体液をアルカリ化する。癌は一種のアルカリ中毒といえるものだ。癌以外の病はいわば酸化反応であり、酸化熱、すなわち発熱することによって治癒へと向かわせるものである。一方、癌は塩基反応により水酸化物イオンOH-を発生させて低血圧、低体温になる。

視診では背部から診ると、右肩が後屈変位しているが、このタイプは寝ているときに汗をかきやすく、自律神経にも影響を受けやすい。仰臥位で診ると鼻先が右方に曲がっており、同側の足先を触診すると、第四趾のつけ根に圧痛硬結がある。その右足先と対角線上にある左足のくるぶしの周囲を圧診すると内果に痛覚があり、続いてその左足内果と対角線上にある右膝関節の膝蓋骨の可動域を確認すれば、外側に痛みを覚える。さらにその対角線上の部位にあたる左下腹部を圧診すると、圧痛を認める。これは左のS字腸部に糞便を溜めているのであろう。左下腹部の次の対角線上の部位は右上腹部である。この部位には肝臓があり、圧診するとやはり圧痛を訴える。右上腹部の対角線上をたどると、左下胸部は心臓があり、低血圧であるという。心臓部からその対角線上の右上胸部にある乳房を触診する。しっかりと触れることができるシコリがある。これが諸悪の根源だと思いがちだが病は全身的なものだ。右上胸部から対角線上に上った左肩を圧診すると、張っているのがよくわかる。その左肩の対角線上の咽頭部を圧診するとリンパの腫れに触れる。そして対角線上の最後は左側頭部であるが、軽く触診すればブヨブヨとした柔らかい部分があり、強く圧診するとやはり痛覚がある。視診、触診を終えて、あとは本人自ら行なってもらうこととなる日常生活での実践内容の説明に入った。

まず、治癒への道筋は民間伝承医学である和漢療法と操体法を併用するというものだ。和漢療法として、以前に乳癌で行なったものと同じ「芋湿布法」をすることにした。これは昔、私が和漢薬を勉強しているときに臨床漢方医の、ある老翁から教わったものだ。

里芋5、うどん粉(強力粉)5、生姜1、塩(精製されていないもの)1の割合で糊状のものにする。これが「芋軟薬」というものだ。里芋は皮をむいて摺りおろし、生姜も摺りおろして細かく混合させ、これにうどん粉と塩とを加えて、完全に混ぜる。余計に作っておいてビンに納め、冷蔵庫に入れておく。表面にカビが生えても下層は使用に耐える。

湿布のやり方は患部に応じたサイズにネル布を切り、完全に混ぜた芋軟薬を厚さ0.5㎝に延ばして患部に貼る。4~5時間で乾くので、乾ききる前に貼りかえる。もし、皮膚が弱く、肌荒れが激しくなった場合は、一時中止して治ってから、貼る前に植物油を塗って、また始める。患部に膿などの異物があるとき、皮膚に口が開き、癌細胞の死骸である膿などの異物が吸い出される。癌細胞といえども、生命をもっている。ねんごろに葬ってやらねばならない。一寸の虫にも五分の魂と言われるように、むやみに殺生すべきではない。たとえバイ菌であっても供養心をもって成仏を願ってやるべきだ。感謝の心と言うのはこんなところに根源があるものだ。

このように吸い終わると、ひとりでに口が塞がる。当然、皮膚に穴ができるが心配はない。それらが出終わるまで貼り続ける。あとはひとりでに塞がり、元の状態に戻る。それまで貼り通すことである。芋湿布の毒物吸引力にはいつも驚かされる。

貼る前に20分間、生姜湿布をすると効力が倍増する。さらに塩を焼いて袋に入れるか、コンニャクを茹でて、それを布に巻いたのを、温湿布の上に重ねておくとよい。また、芋湿布の上に、それらの保温物をのせておくのもよい。

芋湿布が効くからといって、これだけで病気を処置しようとしてはいけない。「息・食・動・想」の生活習慣の指導に加えて、「皮膚」を重視してみる。癌になると、低体温になるが、体温調節も皮膚の独占機能である。実践的には、皮膚浴として日光浴、水浴、空気浴、それに皮膚摩擦が尊重される。日光浴と摩擦は汗腺を強化し、体温調節と毒素排泄をよくする。水浴と空気浴は副毛細血管の造成が目的である。そして特にからだの歪みを正していくことも実行しないと必ず行き詰る。前に何度かおこなった時は、からだの歪みを正すのにヨーガ・セラピーを併用したが、今回は操体で対応した。始めの半月は3日おき、その後は1週間おきに操体法を施すというものであった。

1か月も過ぎる頃には乳房に開いた穴も塞がりはじめ、顔色も良くなってきた。ちょうどこの頃だったか、右足第四趾の圧痛点におこなった渦状波に対して大きく反応したのを覚えている。からだ全身が痺れるというのだ。からだの中を何かが凄い勢いで流れているようだといい、両股関節の部分が引っ張り上げられて、からだがこのまま浮き上がってしまいそうだといっていた。これはスゴイと正直思った。それから1カ月後に病院で検査するも、前回あったはずの癌の影が写らないというあたりまえの結果に喜びを隠せない表情で語ってくれるSさんだった。

今回のSさんの快復は民間伝承療法と操体との見事なコラボレーションによるものである。もちろん、本人自らおこなう努力も決しても見逃せないものであり、それには強い信念が伴うことを忘れてはならない。